ロープ/青春群像
ヒッチコック「ロープ」
なんだこれ!すげーおもしろい!最初から最後までハラハラさせられっ放し。しかも舞台劇を映画で見ているみたい。カット割が一切無い映画ってのも実験的だけど(カメラに人が近づいたときにこっそり割ってある)、それだけ密室間が強調されて、緊迫感も保たれる。
サスペンスなんてほとんど面白いと思ったことは無かったが、こんな作品があるとは…。殺人をしたあとの些細な動揺、心の変化、表情の表現はすごい。安部公房の短編「無関係な死」を連想させる。
メイキングも見たが、脚本家は「最初に殺人シーンを入れたのは失敗だ」と言う。理由は「殺したかどうかわからないままストーリーが展開されることで緊迫感が保たれる」と言う。
僕はやはり最初に殺人シーンを入れて正解だと思うけれど…。なぜならほとんど最初のカットが首絞めている映像というのは強烈で、すぐに観客を画面に引き込むし、観客が楽しんでいるのは謎解きではなく、「バレるか、バレないか」というスリルに他ならないからだ。
そもそも、主人公たちの殺人の動機のひとつにもスリルという言葉が浮かぶ。主人公たちの心理と観客の心理を同期させるためには、最初に殺人シーンを入れたのは適切な判断だと思う。
あと、この映画は同性愛を扱っているらしいが、そんなことはまったく感じなかった。
フェリーニの「青春群像」
いや、おもしろい。登場人物それぞれの個性や抱えている問題、喜怒哀楽など、短い時間で丁寧に表現されている。特に秀逸なのが、無口なモラルド。彼のセリフは少ないが、ときどきの立ち振る舞い、微妙な表情、はき捨てる言葉が、彼が最後にひとり旅立ってしまう理由を十分に考えさせてくれる。
ファウスト、モラルドら主人公たちは30歳くらいという設定のようだが、日本ではニートやフリーターで騒がれる中、悶々とした日々を送っている人たちというのは、未来過去、あるいは国籍を問わず、どこにでもいるものなのだなぁと感じた。だからこそ、そういったものを的確に捉えている作品が、普遍的な要素を持ち続け、今の時代に残っているのだなあと思う。