横浜、光る街
久しぶりの横浜。「もじあるき」に出演していたチェルシー舞花さんが参加する展覧会を見に、赤レンガ倉庫に行った。その前に下北でも写真展をやっていて観たけど、たまに学生展示を観るのは楽しい。チェルシーの作品は意外と内向的で面白い。下北のときにたまたま会えたので話を聞いてみたら、写真の人にはめずらしく、けっこう観念的に作っているみたいだった。
港には飛鳥Ⅱという豪華客船が停泊していた。船のたたずまいが好きだ。旅にまつわる力強い高揚感が、あの静かな船体のなかに感じられる。あんな立派なのじゃなくていいから、外国に向かう船に、いつか乗ってみたい。特に今は、伏木港からウラジオストク行きの船に乗ってみたい。
細野晴臣の「北京ダック」が脳内で自動再生されると、自然と足は中華街へと向かった。秋葉原もそうだけれど、あの電飾の洪水みたいな景色は、強烈に”アジア”を感じさせる。
学生時代に八丈島から東京湾に船で入ったとき、それまでの漆黒だった空の向こうのほうに、宝石みたいに灯りが散らばっていて、感動と同時に安心したのを覚えている。灯りの下には活気があって、活気の下には人がいる、ということに安心したんだと思う。中華街はそういう意味で人の香りがする、温かい場所だった。
色々な店があるけれど、やはり食材店が楽しい。ありとあらゆる香辛料、調味料、中国茶。見ているだけでいい。茶色い紙筒のプーアル茶を買った。まんじゅうみたいに固められていて、削ったものにお湯を入れて飲むらしい。
どこの街でも、良い店というのは喧噪のはずれにあるものだ。石川町の近くの、暗闇の始まりみたいなところに、あまり綺麗ではない食材屋があった。薄暗い蛍光灯の下には、豚の全部位が並べられて200円とか300円とかという値段で置かれていたり、生の北京ダックがこっちを向いて1600円で売られていたり、コンビニで900円くらいで売ってる例の赤いジャケの紹興酒が350円で売られていたり、要するに破格の安さだった。お客さんは皆中国人だったので、そういう店なんだろう。10年ものの見たことのない紹興酒を1000円で買った。店主に色々話しかけると、「これ、ほかで飲むと、4000円くらいだよ」と、たどたどしく言って、ニヤッと笑った。
いちばん地味そうな料理屋でご飯を食べた。どれもまったく油っぽく、むしろやさしい味であることに驚いた。チャーハンなど、炊き込みご飯のようだ。「靖国」という映画で話題になった李纓監督が、むかし「味」というドキュメンタリーを撮っていて、イメージフォーラムに見に行ったのだが、そういえばこの問題を取り上げていた。伝統的な中華料理はあまり油も使わず、ヘルシーなのだが、時代の移り変わるにつれて、油の多い、味の濃い料理を出す店が増えていったという。分かりやすい味と、やさしい素朴な味の対立はいたるところで見られるけれど、自分の入った店がやさしい味の店で良かった。