「オールカラー世界台所博物館」。日本を含めた世界各地の台所を、写真を中心にして紹介する。主に、北と南の台所比較をしている。
そもそも北と南では台所の着想が違い、北国では料理をするのと同時に、部屋を暖めるということも考えなくてはならない。そのため、囲炉裏もつり下げ式にして、火鉢と鍋の間を広く取る。重い鍋をつり下げるため、家の構造もそれに耐えられる形になる。寝室は暖かい台所の裏にするため、部屋の区画も決まってくる。閉め切った部屋で延々と火を炊くので換気のために煙突が必要になる。ずっと火をつけていられるように、ぐつぐつと煮込むような料理が多くなり、衛生面を考えなくて良いので内臓を使った料理も増えてくる。
南国は南国で、その土地柄に応じた色々があって、台所を中心にして、今日の建物であったり、料理、風習などが決まってくることが分かる。人間が暮らすために必要な3つの要素として衣・食・住が挙げられるが、このなかで「食」の占める割合というか、重要度がいかに大きいものであるかを感じさせられた。
世界中のさまざまな形の台所や、それにまつわる火をおこす場所、水を得る場所などを見るのは、単純に楽しい。なぜなら、それらが無理矢理作られたものではなくて、長い時間をかけて必然的に生み出されてきたものだからだ。そういう人間の「知恵」みたいなものを知ると、その素朴さと、工夫のしかたに、う〜む凄い、とうなってしまう。
身近にある、すでに形成された文化物を見つめたときに、それが誰かのデザインによって成されたものだと勘違いしてしまう場合がある。どこかの首長が金持ちと建築家が組んだりして、人と環境にやさしい都市デザインが云々と言っているが、そうしてできた新しい街の居心地は、多くの場合、どうにも、悪かったりする。たぶん、あらゆる文化物は、必然と工夫の繰り返しなのであって、そのバランスがどこかで壊れて、工夫だけが先走ってしまうと、それはどこか人間に根付いていないものになってしまうのかなあ。誰のものでもない、誰もが必要としている形や仕組み、その普遍性を思った。